イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

勝手に尊敬② エスコバル・アルトゥーロさん

前回の記事のセンさんに引き続き、尊敬する人をもう一人ざっくりご紹介します。

お二人目:エスコバル・アルトゥーロさん
コロンビア出身の文化人類学者です。

エスコバルさんのすごさは、「脱開発」という考えを深め続けている点だと思います。エスコバルさん含め脱開発論者は開発に反対し、開発に代わる考え方を提案しています。(中にはこれまでの開発援助は全て失敗に終わっている!と断言する方もいたりします)。 私はある程度開発・開発援助の良い効果を信じているのでこの論調の全てには同意出来ないのですが、その視点から主流の(今多くの場所で行われている)開発援助の改善点に気づき大変にしびれました。こちらも2つ紹介します。

すごいと思うところ①「低開発」は「発明された」という視点
エスコバルさんは開発を批判しまくりなので、最初に授業の必須文献として彼が1995年に出版した’Encountering Development’*1 を読んだとき「おおお。。。」と衝撃を受けました。まだ批判的な文献をどう読み解けばいいか分かっていなかった頃なので余計に驚きました。
彼はまずはアメリカのトルーマン大統領が1949年に「低開発」地域への支援を表明した時に、今に繋がる「低開発」という概念が「発明」され、世界を「先進国」と「途上国」に分ける考え方が広まったと説きます。*2 つまりは勝手に「貧しく悲惨な」地域を決められたということです。そしてその生活をしている地域の人々を助けるという大義名分の裏には、共産主義の広まりを防ぐことやアメリカが商売出来る市場を開拓する意図があったと指摘するとともに、その「開発」の考えは偏ったものであることも解説します。
・・・余談ですが、ここで問題なのは外から「低開発」の概念が押し付けられたことなのですよね。上記のアメリカの例を見ると、開発は「低開発」国のためというよりは、アメリカのために行っている面の方が大きいのではという見方も出来ます。個人的には税金を使って「開発援助」を行う以上、自国の利益を全く考えない政策は難しいのではと考えていますが、トルーマン大統領の演説では援助が低開発国のために行う慈善行為のように巧みに表現されています。 ただそのせいである地域が「低い」地位に勝手に落とされたり、援助と称して「途上国」への「先進国」による政策介入が正当化されたりした事例もあります。

すごいと思うところ②開発に代わるものを模索
1990年代に現状の開発を批判したエスコバルさんは、今の経済や政治体制に代わる案も模索しています。 「近代化」によって人間から自然環境が引き離された、と指摘したエスコバルさん。そんな彼が指示するのがpluriversalism(無理に訳すなら「多様主義」でしょうか)であり、その試みの一つとして注目しているのがラテンアメリカのBuen Vivir *3 という考えです。では近代化の弊害とは何か、Buen Vivirでそれがどう改善できるのかについても彼の意見はとても興味深いです。

脱開発論への批判
主なものとして開発の概念を一面的に見すぎている、開発を否定しながらもその代替案を明確に提案していない、というのが挙げられます。*4

上記批判は納得する部分があるものの、エスコバルさんや他の脱開発論者の考えのおかげで開発援助の偏りを認識出来たことはとても良かったです。ただ・・・ 他の生徒も言っていたけれど、エスコバルさんの論文も読みやすくはありません。コースメイトが「エスコバルはたまに哲学的過ぎて何を言っているかよく分からないんだよねー。いや、エスコバルのことは好きだよ?でも~」みたいな言い方をしていて、知り合いみたいな話し方だなと思って面白かったです。

ということで、以上2名のすごい方でした。紹介したい方はもっといるのですが、余裕があればまた!

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*1:’Encountering Development: The Making and Unmaking of the Third World’, Arturo Escobar

*2:トルーマン大統領の就任演説
Harry Truman's Inauguration Speech - Four Points
Truman's Four Points Speech | Wyzant Resources 

*3:Buen Vivir(英辞郎 on the WEBより抜粋)
「ブエン・ビビール◆ケチュア語のSumak kawsayをスペイン語訳したもの。日本語に直訳すると『よい生活』となるが、これは自然環境と調和しつつ、人間として尊厳のある生活を送ることを指す。2008年に改定されたエクアドル憲法でこの概念が採択されて以来、特に中南米においてこの概念が広まりつつあり、英語文献でもスペイン語のままbuen vivirと表記されることが増えている。」
エスコバルさんの考えが分かるインタビュー
INTERVIEW, Farewell to Development, Arturo Escobar
Farewell to Development | Arturo Escobar 

*4:脱開発論への批判 :
‘Introduction to international development : approaches, actors, and issues’ third edition, ed. by Paul A. Haslam; Jessica Schafer; Pierre Beaudet,
Introduction to International Development: Approaches, Actors, and Issues (3rd Revised edition) | Oxford University Press