イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

人生を「自分の基準」で測ること①(ミュージカル「レント」が教えてくれたこと)

今回は大学院での学びが日常生活と繋がったこと、そしてそれにまつわる作品について書きます。というのも、どの価値基準を使うかで評価が違うという授業からの学びは、人生にも当てはまるなと実感したためです。

「概要」の授業で、貧困の測り方が時代によって変化してきたこと、そして「貧困」は個人の収入といった客観的な測り方から、明確には数値化出来ない「主観的貧困」を考慮する方法もあると教わりました。開発援助の歴史を見ると、開発、そして貧困について「多数派の」もしくは「支配的な」考えに抵抗して、より測定方法・定義の多様化を目指してきた部分があります。

そしてこれって開発の文脈だけではなく、個人の人生でも大切だなーと思った時、私がとても好きな本や映画では、普通(多くの人が支持している考え、と解釈しています)とは違う尺度や基準が示されていたんだなと改めて分かったのでした。だから「普通」から外れていると感じていた私の心に強く響いたんだと思います。

特に結びつきを強く感じた大好きな2作品について書きます。
まず1つ目は、ミュージカル’RENT’ 「レント」(作詞・作曲・脚本:ジョナサン・ラーソン)です。内容を一言でいうとNYを舞台に繰り広げられる若者の青春劇・・・といえるのでしょうが、人生とは何か、をものすごく考えさせられた作品です。

物語から曲からどれもすごく好きなのですが、印象的な歌’Seasons of Love’についてまずご紹介します。*1 1年をどう測ろうか?という歌詞で始まって、「52万5600分」とも数えられるけど、朝日、飲んだコーヒーの数、インチ、マイルで測ることも出来る・・・と尺度を挙げて、最後に「愛で測るのはどうだろう?」と問いかけます。

最初聞いたとき「面白い歌詞だなあ」と本当に驚きました。1年は365日。以上。・・・それ以外の考え方をしたことがなかったからです。Loveで測ると私の場合365より少なくなるかも。コーヒーは1日1杯以上飲んでるから多くなるかな。など思ったりしてとても新鮮でした。

もう一つ印象的だった歌は’What you own’です。*2 この歌で描かれるWhat you own(その人の所有しているもの)で人々が判断される世界は、「経済成長を目標とする現代社会」を表していると感じました。ジョナサンは歌を通して、物質主義が広まる中で、人さえ物のように画一的な基準で判断され、それに当てはまらない人は価値がないものと扱われる・・・という考えに真っ向から立ち向かおうとしていると私は感じました。登場人物が歌う、そんな社会に迎合している今の自分の感情は、自分のものではない、借りものなんだ、という言葉はいつも私の心に響いて、「私は自分の感情を今持っているだろうか?人に流されていないかな?」とつい考えてしまうのでした。

この作品に触れたときは、社会人となって自分が他の人の「当たり前」や「普通」から外れていると強く感じていたころで、RENTの曲によく勇気づけられました。私と同じ気持ちでいて、なおかつ戦おうとしている人がいる、と感じたからです。

’RENT’は「ミュージカルの歴史を変えた」と称されます。ブロードウェイに進出、ピューリッツァー賞トニー賞などを受賞、映画まで作られるほど有名となっています。この作品のほぼ全てを手掛けたジョナサン・ラーソンは、ミュージカルの在り方にも革命を起こしたのでしょうが、今の社会の根本的な枠組み、それ自体に疑問を投げかけた正に’Radical Reformer’の一人だったと感じています。(Radical Reformerについては別の記事で書いています。)

ジョナサンは35歳で’RENT’の公開前夜に亡くなったので、たくさんの人々がその「早すぎる死」を悼んでいます。私も彼にもっと生きて自分の作品がどれだけ多くの人々に愛されているか知って欲しかったし、彼が’RENT’後に作る作品も見たかったです。でも ’Seasons of Love’の中の人生の測り方を当てはめてみたら、ジョナサンの人生は年数としては短かったけれど、’Love’で測ったら他の人より多く生きた、と言えるのではと思っています。私も敬愛という意味で、彼にLoveを贈る一人です。

次の記事では、もう一つの思い出深い作品について書きます。

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