イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

「貧困」の定義と測り方②「貧困をめぐる議論の側面」

前回の記事で紹介した「代表的な貧困指標」は定量的なものが多い感じがしますが、もう一つ「貧困を巡る議論の側面」9つを紹介します。これは大学院の「理論」の授業でおすすめされていた本*1 に載っていました。

◆貧困をめぐる議論の側面

これはMaxwellさんという方の論文*2 をまとめたものです。

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 9つもあると頭が混乱してしまうのですが、1つ1つはなるほど、という感じです。
例えばある授業では4つ目の項目(「瞬間」か「期間」か)に焦点をあてた論文を読みました。その論文では、5年以上貧困状態にいる人々のグループを「慢性的貧困」 (chronic poverty)として他のグループ(調査時に貧困だった人々)と分ける意義を、その慢性的貧困は代々引き継がれている可能性が高く他のグループと異なる解決策が必要だから、と説明されていました。
そしてそれは5項目目の「実際の貧困」と「潜在的貧困」にも繋がり、貧困の原因を代々引き継いでいる人々(例えば自分の所有する土地がない、遺伝性の病気のため家庭内の健康な稼ぎ手が少ないなど)は天災や事故などの有事への耐性が弱く、他のグループよりもより貧困状態で苦しむ可能性が高い、ということも分かります。
大学院で様々な貧困の定義やその測り方を学び直すことで、開発援助に対する考え方がより整理されました。そして人々をある「援助対象者」や「貧困層」といったグループに分ける時、その前提となっている指標が適切かを吟味しないと、どの援助が適切かも正しく分からないと痛感しました。

*1:‘Poverty and Development: Into the 21st Century‘, Allen, Tim and Thomas, Alan, eds
Poverty and development into the 21st century - LSE Research Online 

*2:‘The Meaning and Measurement of Poverty’, Simon Maxwell.
https://www.odi.org/sites/odi.org.uk/files/odi-assets/publications-opinion-files/3095.pdf