イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

DecolonizationとAlternatives(開発に代わるもの)について

今回はDecolonizationとAlternatives(開発に代わるもの)について書きます。授業ではDecolonizationと開発について話されることが多く、この議論から開発と近代について理解を深めることが出来ましたので紹介します。

 Decolonizationとは辞書*1によると「脱植民地化」や「植民地的支配からの解放」とあります。無知だった私はdecolonizationと聞いて、「あれ?でも植民地支配は終わってどの国も独立してるよね?」と思ってしまったのですが、開発(援助)を通じて今でも旧宗主国の支配・干渉は植民地時代と同じように続いている、それに抵抗をしなければと考える人々について知りました。

脱開発を推進する人々によると、主流の開発の考えはヨーロッパの数国が経験した近代化を元にしているため、経済成長への偏重や、ヨーロッパ中心主義への信仰が含まれています。そして開発の目標とされるmodernity(近代性)はcolonialityとセットになっていると考えているため、Alternatives to development(開発の代わりとなるもの)を模索します。この方々はAlternative development(既存のものとは違う開発)という考えにも反対しています。

Colonialityは耳慣れないことばで英和辞書にも該当する意味では載っていません。Maldonaldo-Torresさんという方は「植民地主義の結果として現れたが、植民地政権の厳しい限界をはるかに超えた文化、労働、相互主観的関係、知識生産を定義する長年にわたる権力のパターン」と定義しています。*2
これはColonialism(植民地主義)がまだ存在していたころは外国による直接的統治の押しつけが蔓延しており、戦後のDecolonization(非植民地化)によって宗主国が植民地から引き揚げその支配から逃れたかと思いきや、colonialityによる支配は続いている、という考えです。

では、開発の代わり’Alternatives’は何か?について授業で学んだものをご紹介します。*3

まずよく出てきたものはラテンアメリカン諸国のBuen Vivir(ブエンビビア)です。英語では’good living’と訳され、人間が自然と調和して生きる考え方のようです。近代性が人間から自然を切り離したのと対照的ですが、ボリビアエクアドルでこのBuen Vivirを基にした憲法が作られたことからこの考えが有名になりました。
また、授業では少ししか触れられていなかったので私も詳しくは知らないのですが、メキシコではZapatistasという社会運動が、アフリカでは`Ubuntu`という考えが、開発に代わる考えとされているようです。まだこのAlternativesがどう展開するかは長期間の試行錯誤が必要だと思いますが、開発援助を「近代性の押しつけ」と考える人々がいると認識することは、重要だと感じました。

脱開発の考えは私には過激と感じる部分もあります。ただ、近代性に部分的に賛成しながらも、違う形の生活を模索した方が良いと思うため、この考えがとても響くのかもしれません。

また自分を振り返ってみると、開発援助を知るにしたがって「近代」の負の部分を自覚したような気がしています。例えば、協力隊の2年間が終わった後、物欲が以前ほど湧かなくなりました。派遣国の田舎で少ない持ち物を使って、限りある井戸の水、それほど選択肢のない食料を食べて暮らす中、少し不便だけれど十分幸せだと気付きました。ネットも繋がりにくかったので情報も入ってこず、人と比べて落ち込むことも少なくなったので、いかにこれまで自分が情報に振り回されていたのかも気づきました。逆にメディアなどを通じて消費活動=幸せという考えを刷り込まれ、追い立てられていたのかもしれないと考えました。

もちろん、近代化して物質的に豊かになった結果、良いことがたくさんあったと思います。生きていくのに精いっぱいだった祖父母の話を聞くと、その時代に比べ自分がいかに恵まれているか感じることもあります。でも近代化の負の部分を明確に気づかせてくれた協力隊の経験やその体験を整理できた大学院での学びは、とても貴重でした。 

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<その他参考>

ご参考にPost-development(脱開発)と西洋の近代性を全て否定するAnti-development (反開発)の考えの違いの表を紹介します。出典は上記3と同じ書籍(‘Introduction to international development~’)です

Anti-development

Post-development

Rejection of Western modernity

Some elements of modernity can be useful; hybridization of modernity and tradition

Return to subsistence agriculture

Different (also Western) lifestyles possible; no universal blueprint

Valorization of cultural traditions

Cultural traditions not necessarily superior to the West

Culture as static

Culture as dynamics; constructivist view of culture

Sources: Hoogvelt(2001); Ziai(2004)

*1:新英和大辞典、ジーニアス英和大辞典

*2:Colonialityの定義
‘Long-standing patterns of power that emerged as a result of colonialism, but that define culture, labour, intersubjective relations, and knowledge production well beyond the strict limits of colonial administrations.’ (“ON THE COLONIALITY OF BEING”, Maldonaldo-Torres 2007)より

*3:Buen VivirなどのAlternative についての出典
‘Introduction to international development : approaches, actors, and issues’ third edition, ed. by Paul A. Haslam; Jessica Schafer; Pierre Beaudet,

Introduction to International Development: Approaches, Actors, and Issues (3rd Revised edition) | Oxford University Press