イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

開発援助が暗に意味するものや留意点

今回は、前の記事の定義に続いて、開発援助が暗に意味するもの、その留意点について書きます。この内容は主に書籍「開発援助の社会学」から引用、そして参考にしています。*1

まず開発援助は暗黙のうちに近代化を肯定しています。では近代化とは何なのか?
これも定義は様々ですが、この本の26ページでは「近代化」の構成要素として「工業化」「民主化」「都市化」などが挙げられています。*2

その近代化は産業革命によって推進され、産業革命は資本主義の下で行われました。そして「近代」の起点は、西欧での一蓮の「市民革命」であり、近代化の推進力となったのは十八世紀後半のイギリスに始まる「産業革命」です。 つまりは、主流の開発援助はヨーロッパの数国を起点に始まった「近代化」、「資本主義」、「経済発展」を肯定しているのでした。
このことについて「開発援助の社会学」では以下のように指摘しています。

「こうして発展とは近代化することである以上、発展を手助けする開発援助は近代化を促進するための営為として位置付けられることになるのである。 これは援助する側が『近代化論』を信奉しているかどうかにかかわりない現実である。」42ページから引用

「現実分析を飛ばしていきなり理念に飛躍することは、『開発』プロセスが内包する『近代化思考』に関する考察を置き去りにしてしまう危険性をはらんでいる」「本書でも述べたように、現在観察される『開発』とは『非西欧社会の西欧モデルの近代化』という、きわめて文化拘束的な現象だと考えられ、その方向性への吟味なしに援助や開発を語ることは再び近代化論の陥穽に陥ることになる」190ページから引用

 「陥穽」とは落とし穴のことだそうで、私は近代化についてあまり認識せずに開発援助に関わり始めたので、この文章を読んでとても反省しました。
また、この本で書かれている「開発援助」に関わる際の留意点もとても重要だと考えました。ここでは「援助」は社会的行為で、「開発援助」は「社会の発展を目指して行われる、外部からの資源投入」 と定義され、以下の点が説明されています。(52ページの内容をまとめています。)

・資源には有形・無形の両方が含まれる
・開発援助とは「一方的な資源の移転」その意味で、贈与の一形態とみなし得る。
・同じ資源が贈与されても、両者の関係性、インフラ整備状況、受け手の活用能力に応じて、全く異なる意味と効果を持ちうる。これが「援助」という社会的行為である。

以前は「効果的な援助」について共通の正解があるようなイメージを持っていましたが、今は援助が贈与の一形態という考えに納得し、その効果は文脈に依って異なると気づきました。万人が喜ぶプレゼントが存在しないように、援助の効果も多種多様であると遅ればせながらイメージすることが出来たのでした。

そして「開発援助」で発生する意図しない力関係についても、以下のように説明されています。

・「援助は一方的に資源が移転されるために両者の関係は非対称なものとなる。 そして『与える』『受け取る』という非対称な関係は力関係=権力を発生させる」
・「理念として『対等』な『協力』を目指すことに異論はない。しかしながら、現在『国際協力』という名の下に行われている事象の多くは、この非対称性を有している。自らの関与している事象の『非対称性』に気づかず、『平等』の理念に酔いしれるとき、援助という行為はそのルールの不在と相まって、援助者にも被援助者にも望ましくない社会的軋轢や影響をもたらしかねない。」

これは協力隊としての経験で実感したことなので、一言一句が胸に迫る気持ちがします。当時の私には理念に酔っている部分があったと思うからです。

開発援助の定義を何となく良いものと思っていた私は協力隊活動中に自分が思い違いをしているのではと迷いました。そして帰国後、その迷いは開発援助が含んでいる近代化の肯定や非対称の関係を認識していなかったからだったと分かったのでした。それから大学院で学びなおした結果、自分なりの開発そして開発援助の考え、そして資本主義社会においてどの程度近代化を取り入れた方が良いと思うかについて認識出来るようになりました。このことは私にとって今後を考える上でとても重要だったと感じています。

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*1:「開発援助の社会学」佐藤 寛  著
また、開発援助が近代化や資本主義を肯定していることは大学院で読んだ文献にも多く記載されていましたが、以下書籍は分かりやすくまとまっていました。 
‘Poverty and development into the 21st century’, Allen, Tim and Thomas, Alan,編著
Poverty and development into the 21st century - Ghent University Library 

*2:コトバンクで「近代化」を調べた結果です。「きわめて包括的な概念でさまざまな意味内容を伴っている。」(日本大百科全書(ニッポニカ)の解説)とあるように色々な意味が載っています。
近代化(きんだいか)とは - コトバンク