イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

「開発」そして「援助」とは何か

今回は開発の定義について書きます。
というのも、進学前の私は「開発」とは何かが分からなくなっていたからです。それまで私は、開発とは主に経済発展であり、開発援助とは「途上国(と呼ばれる国)が発展するために行う支援」という考えを持っていました。しかしどの時点で「開発」完了!となるかというと、イマイチ腑に落ちない気持ちもありました。日本は「先進国」(つまりは開発が完了した国)となっているけれど、それは経済面からそう見なされているだけで、当たり前ですが全てが完ぺきではなくまだ発展した方が良い部分もあると考えていました。

では、「本当の開発」とは何か?その答えについて、大学院で学んで頭が整理出来たのですが、特に以下が印象的でした。

1.「開発援助」「開発」の定義は多様
2.開発に関わるうえで、それが暗に肯定するものを認識する必要がある。

まず「開発援助」の定義についてですが、「国際協力用語集【第4版】」の説明を紹介します。

開発援助とは「開発途上地域・諸国の経済社会開発および福祉の向上を目的として供与されるもの」。
※ここでは代表的なものとして、政府・関係機関による政府開発援助(ODA)と国際機関による公的援助、そしてNGO による援助が挙げられています。

また、用語集では開発援助と似た意味を持つ言葉として「開発協力(development cooperation)」と「国際協力(international cooperation)」の2つも紹介されていました。*1 

次に「開発」の定義ですが、これも人や組織によって異なります。有名なものを二つ紹介します。

・国連開発計画UNDP・・・「人間開発」とは人々の自由を広げることであると定義し、経済の豊かさだけではなく、人々の生活の豊かさに焦点をあてています。 *2 

・参加型開発の父と呼ばれるロバート・チェンバースさん・・・開発は’good change’と、とてもシンプルに定義されています。

 ただ開発援助での文脈においては、書籍「開発援助の社会学」にある以下の定義が私にはしっくりきました。*3

「開発」とは「他者が意図的・計画的に働きかけることによって発展を促そうとする行為」

そして発展は物事が良い方向に変わることを意味するとしたうえで、以下のように説明されています。

「社会の発展」とは「社会が複合的・継続的に『良くなる』こと」

このようにまとめると、開発の定義は国を問わず全ての人や地域に当てはまりそうなのに、開発援助となると対象が発展途上国と定義された国が対象となることに改めて気づきました。

また、定義は多様でどの定義もなるほどと思う面があるのですが、開発援助に関わる際には自分なりの明確な開発の考えを持って、自分の行っている事業と、その考えにずれがないかを把握する必要があると感じています。

また、「開発援助の社会学」では開発に含まれる暗黙の了解について以下のように説明されています。

・一般に社会の発展のためには経済発展が必要だという考えが定着している。
・そのためGNP(国民総生産)など経済発展を示す指標が用いられることが多い
・この「発展」の方向性は「近代化」である、つまりは現在行われている多くの開発援助の目的は「近代化」となっている。

ここで指摘されている開発とは他者が意図的にある対象を良くしようとする考えであるが、その目的は近代化であることが多い、という指摘は重要だと思います。

では、「近代化」とは何か、そして開発援助が暗に意味するもは何かについては次の記事で紹介したいと思います。

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*1:■開発協力(development cooperation)
「上記の開発援助に加えて、その他の政府資金の流れ…及び民間資金…の流れを総計したものを広義の『開発協力』という」。「援助と協力の違いは前者が援助供与側から受け入れ側への片務的な性格が強いのに対して、後者には両者間の互換性が求められる点」。(この)捉え方や名称は、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)で用いられているもので、日本では同様のコンセプトでも「経済協力」という名称が使われるようです。

■国際協力(international cooperation)
広義のとらえ方もあるが、「途上国の『開発』が一時的な目的として設定されているものがほとんどである」。つまりは開発協力とほとんど同義で使われている。
(注)なぜ同じ意味の言葉が2つもあるのかという点に対し、「開発援助の社会学」では考察されていたのは、「援助」(施しというニュアンスが感じられる)より「協力」(「互いが対等な立場で力を出し合うというニュアンス」)が好まれるのでは、というものでした。日本のODA(政府開発援助)を行う機関JICAが「国際協力機構」という名称であることが、この考察で腑に落ちた覚えがあります。

『国際協力用語集』、佐藤 寛 (監修), 国際開発学会 (編集) 

*2: ‘Human development – or the human development approach - is about expanding the richness of human life, rather than simply the richness of the economy in which human beings live. It is an approach that is focused on people and their opportunities and choices.’
About Human Development | Human Development Reports

*3:「開発援助の社会学」佐藤 寛  著