イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

「本当」の参加型ワークショップとは①ファシリテーター編

今回はParticipatory Workshop(参加型ワークショップ)に参加して得た気付きについて書きます。

大学院で授業とは別に、自由参加の週末1日のワークショップが各学期に2~3回開催されていました。ファシリテーターは世界的に有名な、参加型開発についてたくさんの著書を書いていらっしゃる方です。最初はせっかくの機会だし、という気持ちで参加しましたが、本当の「参加型」とはこういうことかと印象的でした。なんといっても彼のワークショップの進め方の随所に、私たちが参加しやすい細かな工夫がなされているのにとても驚いたのでした。

私自身参加型開発について知識はあまりなかったのですが、大学院でこのワークショップに参加して、改めて授業で学んでいた現場の’asymmetry power relations’(非対称な関係)に個人としてどう対応すべきかの指針を得た気がしています。ファシリテーターと参加者の両者からの気づきを得ましたが、まずファシリテーターからの学びを書きます。

■内容・進め方
開発に関するテーマが1つ挙げられ、そのテーマについてディスカッションなどを通じて1日で学ぶ形式でした。まず朝9時半ごろに集まって、内容の簡単な説明があります。その後はテーマに関する質問に対し、ペア又はグループで話し合い(内容に応じて数分~30分以上)、それを口頭又は模造紙などに書いて全体に共有、それに対しファシリテーターが解説する・・・ということを数回繰り返します。お昼休憩を挟んだ後、午後はまず参加者の体験の共有から始まります。これはテーマに関連した経験を持つ4人が立候補し、各15分くらいで発表。それを他の参加者が聞いて回るというものです。その後は質問~解説の流れを数回行い、最後はペアで今日学んだことを伝え合います。

■印象的だったこと
私は日本で参加型ワークショップについて学ぶ数日間の講座に参加したことがありましたが、ぶ厚い資料に書き込みながらほぼ座学でした。この講座の目的は細かな手法を勉強することだったと考えています。ただこの大学院でのワークショップでは、将来ファシリテーターとなる人が「参加者」の立場を体感することも目的とされているような気がしました。参加者はほぼずっと聞く、話す(けっこう移動する)、を積極的に行わなくてはならず忙しかったですが、どういう説明や進行であれば参加しやすいかなどについて得られるものが多くありました。

以下が特に印象的だったことです。
ファシリテーターは解説後にほぼ毎回、何か質問があるかを参加者に尋ねていました。そしてどんな質問にも朗らかに答えますし、失礼に思える質問(その前に説明されたことを尋ねたり、細かな質問を何回も聞いたり)についてもユーモラスにかわしながら答えたりします。そのため常に質問者への敬意が保たれていていました。特に他のワークショップやセミナーで、有名な人ほど参加者に高圧的に対応したり質問者の無知を暗に責めたりする姿を見たことがあったので、彼の一貫した態度は素晴らしいと感じました。

ファシリテーターは参加者の様子を常に確認していました。高齢な方なのですがディスカッション中の様子を聞いて回り、必要に応じてコメントされます。このため参加者もファシリテーターを身近に感じられやる気が出ますし、質問しやすくなっていたと思いました。

ファシリテーターは常に分かりやすい言葉で、ゆっくりはっきり説明していました。その日の質問は模造紙に書いてあり、共有もそれに書いて行われるので目でも確認出来ます。授業で英語ネイティブの先生が概要だけ書いたスライドをもとに早口で説明するのを必死にメモしていた私にとっては本当に有難い配慮でした。全部書き取らなくても、後でその模造紙をスマホで撮影し復習出来るからです。

ファシリテーターを務めていた方は開発の世界でものすごく有名で、元教授、白人の中流階級出身、年上、英語ネイティブ・・・とあらゆる面で参加者の上位になれる、つまりは力を持っている人です。でも生徒よりも大きな力を持つ彼はそれが私たちの参加を妨げないよう、様々に気を配っていました。気遣いはいつもさりげなく彼自身気さくな方だったので、ワークショップは終始和やかに進んでおり、私は心底感動しました。

とても人気がある方なので、生徒が本へのサインや写真撮影をワークショップ後に頼んだりするのですが、快く対応されていました。もちろん必要な時、例えば、参加者が午後に帰ってとても少なくなったり、関係のない質問を繰り返したりする時には少し厳しい発言もありました。ただそれは秩序を保つために必要なことだと感じました。

このワークショップを受けて、過去仕事で自分が行ったワークショップを思い返し、私はこんなに参加者へ気を配れていなかったなと反省しきりでした。そしてこれまで自分の意見を押し付けるファシリテーターがいたりして正直ワークショップというものにネガティブな感情をいだくこともあったのですが、彼を見て「本物はこれだ」と衝撃を受けました。そしてこれから自分がその場で特に「力」を持っていると感じる時、彼を思い出しその関係性を調整したい、と強く思いました。

下の写真はワークショップの中で’How we sabotage in everyday life?’という質問について、グループで話し合った内容を全体に共有したものです。日常生活で自分たちが行っている、相手の言動を妨げる行動が意外にあること(相手に質問せずに推測するというものから、相手が話しているときに時計を見るというものまで)が分かり面白かったです。
次の記事では参加者からの学びを書きます。f:id:natsuko87:20200815164739j:plain