イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

「本当」の参加型ワークショップとは② 参加者編

前回の記事(ファシリテーター編)に続き、ワークショップの参加者から学んだことを書きます。

私はこのワークショップ参加者の中では、自分が英語力も開発に関する知識も他の人より劣っていると考えていたため、このワークショップはどちらかというと弱い立場の人の気持ちを体験している気がしていました。楽しいのに毎回緊張していて、不思議な感覚でした。
他の参加者の対応で特に印象的だったのが、何かを決定するときにどう力関係を緩和するかを学んだ回です。通常グループで意見を出し合い何かを決める時には、紙を囲んでペンを使いながら話し合う、という方法がとられます。ただこれだとペンを握る人が紙に何を書くかを決めるため「力」を独占してしまい、決定にその人の意見が多く反映される傾向があります。

そこで、力の独占を避けるため、意見を出し合い決定する際には全員が投票するという方法が提示されました。その方法とは、豆などを使ってまずは全員が意見を出し合って、その豆を各々動かしながらお互いの意見を調整していくというものでした。この方法であれば一人がペン(力)で意見を反映させる方法とは違い、みんなが同じ程度の力(豆)を使って意見を交換出来ます。

では決定のプロセスを体験してみよう、とそれぞれ4人組になって自分たちで決めたテーマで優先順位を決める、というグループワークをしました。テーマは何でも良かったので、私たちのグループは国際NGOの名前を4つ挙げ、その活動の順位を決めることにしました。そのワークはとてもしっかりした男性が、ずっとペンで自分と私たちの意見を紙に書きながらテキパキと仕切ってくれました。私は「あれ?ペンではなく豆を使うワークなのでは?」と周りを見渡すと、みんなが豆を動かしながら話をしていました。しかし私のグループはどんどん3人によって議論が進み、一人がどんどんペンで内容を書き込んでいきます。

もちろん3人は優しい人たちだったので、この時私が何か発言をしたら聞いてくれたと思います。ただ私は3人が私(ほぼ参加していない人)に気づくかな?と少し意地悪な実験をしてみることにして、笑顔で観察していました。この後、特に私を気にすることなく順位表は完成され、その仕切り役の彼は一度もペンを手放しませんでした。

ファシリテーターがじっとその様子を見て、「このグループは豆を使わなかったんだね」と一言言って去っていきました。その後の雑談で、ずっと仕切っていた彼は有名な国際NGOに勤めていて何回も参加型ワークショップのファシリテーターを行ったと言っていて、「さぞ、自分が一番参加するワークショップだっただろうな」とつい思ってしまいました。

この場合は同じ生徒という立場で積極的に参加しなかった私に非がありますが、多様な立場の人と行う場合には語学力や知識不足でついていけない人、性格や社会的な立場によって「参加出来ない」人もいると考えています。このワークショップで一番の肝は「力の差を緩和し参加者全員に参加してもらう仕組みを学ぶ」ことだと思っていたので、それを全く気にしていないように見える人がいたのには少しびっくりしましたし、人によって重視するところは違うのだな、と感じました。

一方で、ほとんどの参加者は自分の力を意識していたと思います。すごいな、と思った方の一人は30代後半くらいで大学院に通いながら自分でNGOを運営もされていました。でも彼女はディスカッションの時には、他の参加者の話を聞いて必要な時はフォローするなどとても控えめに対応していました。そしてファシリテーターがたまに彼女に「君は同じ経験をしていると思うけど、少し紹介してくれるかな?」と話をふると、ものすごく内容の深い経験を共有してくれます。彼女がディスカッションで話そうと思えば他の参加者よりも内容の濃い話が常に出来たと思うのですが、まずは他の人が話しやすい雰囲気を自分から作っていた穏やかな姿に学ぶものがありました。

他にも聞き返したらゆっくり分かりやすい説明に変えてくれた英語ネイティブの人、説明に詰まる人がいたらフォローする人、と多くの参加者が参加しやすい場づくりに貢献していました。

自分が大きな力に対峙したとき人によって対応は違いますが、私はファシリテーターやその参加者のようになるべく力関係を自覚したいと思っています。大学院の授業でも自分の力のバランスをとる先生とあまり気にしない先生がいました。ただ、「評価者」としての先生の力は生徒にはとても大きく感じられるので、授業で質問した時の対応があまりに冷たければ、その生徒は質問をしなくなるかもしれません。私は力関係を意識してバランスをとろうとする先生を尊敬していたので、自分も真似出来るように観察するようにしていました。修了後もその習慣は変わらず、こんなに人間は力関係に影響されるんだなと、とても興味深い気持ちになることがあります。

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