イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

「教育」の目的

今回は春学期に受講した「教育」の授業で学んだことを紹介します。
主に教育と争いの関係を様々な角度から勉強したのですが、特にこの授業を通して教育の価値や効果を無条件に肯定しがちな自分に気づくことが出来たのはとても貴重でした。そして心に残ったのが教育は必ずしも良い効果をもたらすものではない、という考え方です。
この学びが印象的だったのは、進学前の私が開発援助の文脈で教育をどうとらえるべきか分からなくなっていたからだと思います。何をどう教えるのが良いかは価値観に拠るけれど、自分(日本の文化を強く反映)と援助される人々の価値観や文化が違う中で、お互いの価値観をどの程度取り入れるべきか判断するのは難しいと感じていました。

授業で学んだ教育のカテゴリー
この授業の最初に先生から、教育の目的は関係者毎に異なるとして以下7つのカテゴリーが提示されました。
1. 基本的人権
2. 人的資本 *1
3. 解放
4. 融和
5. 教化
6. 変化
7. 社会的団結
これを見て、私は教育の意義を「1.基本的人権」、「2.人的資本」として捉える傾向にあると気づきました。そして教育が「5.教化」にもなり得るということは協力隊時代に実感したのでした。

進学前の迷い
私は協力隊として、某アフリカの国で中学生にICTを教えていました。活動1年目は、生徒たちに高等教育まで進んでもらって自分で稼げるようになってほしいと、放課後のタイピング教室なども行いました。正に「教育=職業を得るために必要なもの」という考えを信じていたのです。
ただ徐々に、派遣国では日本と違ってパソコンは大人でさえ使える人が少なく、パソコンを使った仕事は都会に少ししかないと気づきました。そのため、赴任当初は「この国が経済発展をした時に稼げるようにコンピューターを操れるようになってほしい」と思っていたのに、だんだん「この国でコンピューターが普及するまで後10年以上かかるだろうな」とか「電気を膨大に利用し産業廃棄物を無限に作り出す高度IT社会に全ての国がなることが正解だと思っているわけではないんだよね・・・」と迷うようになりました。
私の活動する地域は農業で生計を立てている人々がほとんどで、家にパソコンがある生徒はほぼいませんでした。「IT知識は役に立つけど、この子たちが直近で必要とするのは別の知識かも。例えば基礎学力を身につけたり、より生産力があがる農業技術などを身につけたりしたほうが、良い生活に繋がるのかも」と思うようになったのでした。

まとめ
大学院で学んでこれまでの迷いがより整理されました。まず協力隊時代にそれまで全面的に信じていた「教育は基本的人権」であり「教育によって稼げる人材を育成する必要がある」という考えに疑問が生じたのでした。そして大学院で、基本的人権の考えは西欧に根差していること、そして人間資本の強調は「『近代化』の教化」に繋がっていることに改めて気づいたのでした。何を信じるかは違って良いと思うのですが、私の場合はそれを認識していなかったことで矛盾が生じたのだと分かりました。
大学院の勉強で良かったことの一つは、自分が悩んでいたことについて、「あなたの考えにプラスして、こういう考え方があるよ」とより包括的な知識を教えてもらえることでした。それまでも分からないことがあるとその都度ネットや本で調べていました。でも大学院で学んで、自分では見つけるのが難しかった考えを知って頭が整理出来た時の「・・・なるほど!!」と腑に落ちる感じは格別でした。

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*1:人的資本(「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」より抜粋)
「職場訓練,学校教育によって新たに労働者個人に付加される能力をいう。教育という投資により,蓄積される知識や熟練を資本とみなす。」

https://kotobank.jp/word/人的資本-82271