イギリス留学 ざっくり日記

大学院で社会開発を学んだ話

開発へのCriticalな視点①

今回はcritical thinking(批判的思考)ってこんな風に考えるんだなあ、と印象的だった授業について書きます。
それは秋学期、大学院に入学して最初に受けた「理論」の授業でした。第一回目だったので、まず授業の大まかな流れを説明した後、先生は大学院で開発援助の欺瞞を指摘し批判的に分析した学生のほとんどが、国際機関などの開発援助業界に就職する矛盾について説明されました。

・・・ここで少し話を進めると、確かに学ぶにつれて迷いが生じたりしました。2回目以降の授業ではほぼ全ての開発援助団体の欠点を学びました。例えば、国連関連機関や政府機関に対しては「大きな組織で現場のニーズを知らない人間によって作成された政策が実行されている」という指摘や、そしてNGOに対しては「資金不足のため政府などの助成金に頼らざるを得ず、把握しているニーズとは違うプロジェクトを行なっている」という批判などがありました。
また、「そもそも『先進国』が『途上国』の政策に口を出す開発援助というスキーム自体が植民地主義を引きずった考えであり、間違っている」と唱える学者さんもいたりします。そんな記事を何か月も読んでいると、沢山の欠陥を抱える開発援助のスキームに自分が関わるは良いのかという疑問を抱いたりしました。

・・・このようなもやもやした気持ちを今後抱くであろう生徒のために、この第一回目の授業では修士取得後に何をしたいのかを考えるヒントとして2種の議論が紹介されましたので共有します。

まず1つ目は人類学者達の開発への介入に対する立場の分類です。私含め人類学者以外にも参考になる分類なのですが、以下4つに分けられています。*1

1. Rejectionist (拒絶者)
‘one that sees the anthropologist's intervention as elitist or paternalistic, as something that necessarily reinforces the status quo.’
開発に介入することを否定的にとらえる考え方ですね。


2. Monitorist (観察者)
‘who simply diagnoses and creates public awareness of the problems associated with development’
この立場は現状を分析して開発の課題を伝える、淡々と学者としての仕事をする感じでしょうか。


3. Activist (実践主義者)
‘who…is actively engaged in development work’
学者としての知見を積極的に現場で生かそうとする立場ですね。


4. Conditional reformer(条件付き改革者)
‘who recognizes that anthropologists can contribute to the solution of Third World problems, but who also recognizes that their work in development programs and institutions is inherently problematic’
半々の気持ちで、自分たち学者の介入が第三世界の課題に役立つと思いつつも、自分たちの介入自体に問題があることも認めている、悩める感じですね。

授業では約80人ほどの生徒達に対して自分がどの立場だと思うかをオンラインで統計が取られたのですが、過半数以上が4の「条件付き改革者」、その次に多かったのが3の「実践主義者」でした。私自身は自分が「条件付き改革者」になりたいのかなと思っていますが、同じ「開発」に興味を持っている人でも各々立場が全然違うことを知れたことは、その後の授業で他の生徒と話す上でとても良かったです。(例えば1の『拒絶者』の人と議論すると開発援助を全否定なので自分の意見に自信がなくなったりしたのですが、目指している方向が違うことを思い出して、どちらかが正しいではなく、違って当たり前だと思えたりしました。)

そしてこの授業で進学前の疑問が解消されました。それは、開発そしてそれに関わりの深い開発援助を大学院で高額な費用と貴重な時間を費やして学んで、それが「修士取得」と履歴書に書ける以外の何の役に立つのかな?知識や人的ネットワークは仕事や自力でも得られるのでは?というものでした。でもこの授業を通して、批評的思考を知り、先生や生徒と話し、自らの考えを深める、を行うには学校という場が最適だと実感することが出来たのでした。

それでは次の記事では、授業で紹介されたもう一つの分類、近代社会の捉え方について書きます。

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*1:この説明は以下の文献にあるGrilloさんの論文のまとめを抜粋しました
‘Anthropology and the Development Encounter: The Making and Marketing of Development Anthropology’, p.672, Arturo Escobar著

※上記文献で参照されているGrilloさんの文献は以下です
‘Applied Anthropology in the 1980s: Retrospect and Prospect’, Ralph Grillo and Alan Rew, 編著